たったひとつの恋をください
開け放たれたふたつの入口から、ダン、ダン、とボールの弾む音が聴こえてくる。威勢のいい掛け声、たくさんのシューズが床を走る音。
その入口のひとつから、琴里がひょこっと顔を覗かせた。
「……ねえ、もしかして、行くところってここのこと?」
私は琴里の背中に尋ねてみる。
「ん?そうだよー」
と、琴里は振り返って、当たり前のように答えた。そうだけど何か?とでも言いたげな顔で。
私はひっそりとため息をついた。
なんだ。私を連れてきたのは、用事のついでか。まあ、別にいいんだけど。
じゃあもう帰ってもいいかな?そう切り出そうとしたとき。
「あっ、休憩入ったみたい。蓮ーっ!」
琴里が、手を振りながら、私が今一番聞きたくない名前を大声で呼んだ。
……蓮?
聞き覚えがある、なんてもんじゃない。
忘れたくても忘れられない名前。もはやトラウマと言ってもいいくらいに。