たったひとつの恋をください




「……七瀬?」



ぼうっと立っている私を、蓮が不思議そうに見つめる。


どうした?蓮がそう尋ねるのと同時に、私は口を開いた。



「私、もう行くね」



「……え?」


蓮が目を見開く。


きっと一緒に待っていると思っていたんだろう。


そりゃ、そうだよね。私が強引に君をここまで引っ張ってきたんだから。


でもね、最初から、会わずに行くつもりだったんだ。


私の役目は、蓮をここに連れてくること。


だってそうでしょ。


琴里が目を覚ましたとき、一番に会いたいのは、きっと君だから。


そこに私がいたら、きっとまた悲しい顔をさせてしまうから。




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