たったひとつの恋をください
「あのー。俺のこと忘れてません?」
隣で見ていたもう一人の短髪の男の子が、待ちくたびれたように手を上げる。
「あ、ごめん。完全に忘れてた」
「おいっ!ひどいな!」
彼は涙目で訴えてから、私のほうに向き直る。
「俺は永峰太一(ながみね・たいち)。俺も同クラだからよろしくね、ナナちゃん」
「は、はあ……」
ごく普通に握手を求められて、私はおずおずとそれに応える。
「ナナちゃん指細っ!女の子っぽいなー」
「おい太一、それセクハラだって」
「あっ、ごめんつい」
ぱっと手を離されて、そっぽを向く。
「…………」
ああ、やっぱり、ムカつく。
一番のセクハラはあんたでしょって、言いたいのに言えないこのもどかしさ。
そんな私の心なんて知ってか知らずか、ニコニコと余裕シャクシャクな笑顔を浮かべる蓮。
私の反応を楽しんでるなら、余計にタチが悪い。
やっぱり、もう関わらないようにしよう。この男にだけは。
改めてそう心に誓った。