たったひとつの恋をください
あの日借りっぱなしで帰ってきてしまった、黒いパーカー。
どうしてあんな目立つところにかけたんだろうって、今さら不思議に思った。
もしかしたら、心のどこかで予感していたんだろうか。
ーーまた、近いうちに会うことになるって。
一瞬考えて、そんなバカな、と苦笑した。
運命なんて。そんな適当な言葉、真に受けたわけじゃない。
そもそもあんなに可愛い彼女がいるくせに、何が運命だ。
あんな最低な奴に振り回されてぐちゃぐちゃになってる自分が、本当、バカみたい。
だから。明日、返しに行こう。
パーカーを返して、もう、それできっぱり忘れてしまおう。
あんなの間違いだって、ちょっと犬に噛まれたくらいのものだって。
そうして今度こそきれいさっぱり、記憶の彼方に消し去ってやるんだ。