たったひとつの恋をください
琴里のペースに合わせてのんびり歩いていたから、教室に着いたのは、一時間目が始まるギリギリの時間だった。
もうすでに先生が来ていて、机も半分くらい埋まっていた。
その面子の大半がヤンキーかギャルっぽい人たちばかりで、なんだか余計に落ち込む。
こんな、明らかに勉強してなさそうな人たちと一緒なんだ。
私は予習も復習もちゃんとやってたのに、なんでこんなところにいるんだろう。
「おーいそこの二人、早く座れよー」
「あっ、はい」
私は慌てて返事をして、琴里の席のひとつ後ろに座った。
自然と、琴里の小柄な後ろ姿が視界に入ることになる。
何度見ても、見惚れてしまうくらい綺麗な髪。
よく見れば、器用に細かく編み込みがしてあって。
そういうのも全部、好きな人に自分を可愛く見せるためなのかなって思ったら、素直に感心してしまった。
「じゃあここ羽川。前に出てやってみてくれ」
「は、はいっ」
先生に指名されて、琴里が立ち上がる。
明らかに自信なさげな背中を、人私はつんつんと人差し指でつついてみる。
「……ナナちゃん?」
「ここの公式使うんだよ」
「あ、ありがとうっ!」
琴里はぱっと大きな瞳を輝かせて言った。