たったひとつの恋をください




琴里のペースに合わせてのんびり歩いていたから、教室に着いたのは、一時間目が始まるギリギリの時間だった。


もうすでに先生が来ていて、机も半分くらい埋まっていた。


その面子の大半がヤンキーかギャルっぽい人たちばかりで、なんだか余計に落ち込む。


こんな、明らかに勉強してなさそうな人たちと一緒なんだ。


私は予習も復習もちゃんとやってたのに、なんでこんなところにいるんだろう。


「おーいそこの二人、早く座れよー」


「あっ、はい」


私は慌てて返事をして、琴里の席のひとつ後ろに座った。


自然と、琴里の小柄な後ろ姿が視界に入ることになる。


何度見ても、見惚れてしまうくらい綺麗な髪。


よく見れば、器用に細かく編み込みがしてあって。


そういうのも全部、好きな人に自分を可愛く見せるためなのかなって思ったら、素直に感心してしまった。


「じゃあここ羽川。前に出てやってみてくれ」


「は、はいっ」


先生に指名されて、琴里が立ち上がる。
明らかに自信なさげな背中を、人私はつんつんと人差し指でつついてみる。


「……ナナちゃん?」


「ここの公式使うんだよ」


「あ、ありがとうっ!」


琴里はぱっと大きな瞳を輝かせて言った。


< 48 / 377 >

この作品をシェア

pagetop