たったひとつの恋をください
校門の外に出て、肺が苦しくなってきたところで、ようやく足を止めた。
さっきの私、すごく感じ悪かっただろうな。
お弁当、すごくおいしかった。四人分もの量を作るなんて、きっとすごく大変だろうし、時間だって私の想像以上にかかってるかもしれない。
なのに私は、ずっとしかめっ面で。しかも、途中でいきなり帰るだなんて。
なんとなく後ろめたささに振り返ってみた私は、ギョッとして目を目を見開いた。
「ーー七瀬っ!」
なぜかそこに、蓮がいたから。
「はあ……やっと、追いついた」
少し息を切らしながら、蓮が言う。
「……なんで来たの?」
「これ、ハンカチ忘れてったから。つか七瀬、足早すぎ。俺でもなかなか追いつけなかったよ」
蓮が手に持っていたものを見て、あっと思う。それは、いつも使っている、淡いピンクのハンカチだった。
いつかの、お母さんからの誕生日プレゼント。ピンクなんて私には似合わないと思いつつ、なんとなく何年も使い続けている。
たぶん、ありがとう、って言うべきところなんだろう。
だけどーー、わかっていても、素直な言葉は出てこなかった。