たったひとつの恋をください
「……ったく、人を強引に誘っといて遅刻とかさ。もう帰ろうかと思ったよ」
「ほんとごめんね。途中で忘れ物に気づいちゃって」
「忘れ物?」
「うん、コレなんだけど」
琴里が持ち上げてみせたのは、いかにも重そうなビデオカメラだった。
「……それ、いる?」
「いるよ!だって携帯じゃちょっとしか撮れないもん。お父さんに頼んで貸してもらったんだから」
「……ああ、そう」
もう反論するのも面倒だったから、言いかけた文句を呑み込んだ。
時間は、十時少し前。
もうすぐ、試合が始まる時間だった。