たったひとつの恋をください





するとーー、


「んん~……っ」と、下から間延びした声。


「……………………え?」


「……あれ。七瀬だ」


ぼんやり目を開いた蓮が、目を擦りながら私を見る。


「へ?」


「あー、変なとこで寝てたせいで体がいてー……」


ね、寝てた!?


「えっ、寝てたの?ここで?」


「うん。木陰で気持ちよかったから」


蓮はあっさりと答えて、体を起こしながら背中についた砂を手で払う。


……嘘でしょ?


私は呆れて、がくりと肩を落とした。


「気持ちよかったって……せめてベンチに行こうとか思わなかったの?」


「ああ……もうね、全力で走りすぎて、急に体力切れたから。バタッと倒れて、いつの間にか爆睡してた」


ケラケラと他人事みたいに笑うけど。


私は、ちっとも笑えなかった。


……な、なんて紛らわしい奴。


こんな土の上で人が倒れてたら、誰だって勘違いするよ。本気で心配して損した。


でもーー、


「よかった……」


思わず、口にしていた。


よかった、ケガとかじゃなくて。


一瞬、蓮がバスケできなくなったらどうしよう、とか、本気で考えてしまった。


もうあの姿が見れなくなるのは嫌だって。



< 81 / 377 >

この作品をシェア

pagetop