たったひとつの恋をください





「そういやさっき、初めて名前呼んでくれたな」


蓮がふと思い出したようにそんなことを言うから、一瞬、何のことかわからなかった。


「な、名前……?」


「うん。さっき、呼んでくれたじゃん」


「え、さっき?」


もうとっくに何度も呼んでいたつもりでいたけど。言われてみれば、本人の前で口に出したことはなかったかもしれない。


でも、さっきって……。


思い出して、途端に顔が熱くなるのがわかった。さっき、私、思いっきり名前叫んでた。慌てて、取り乱して。


うわあ……めちゃくちゃ恥ずかしいんですけど。


「……須藤くん」


「ぶっ、今さら」


蓮が吹き出して、さらに恥ずかしさが募る。


うう、墓穴掘った……。


「いいよ、蓮で。俺も七瀬って呼んでるし」


蓮の口から飛び出したその響きに、トクンと小さく胸が鳴った。


『七瀬』


どうしてかな。聞き慣れた自分の名前なのにーー、


君が口にすると、なんだか急に特別なものみたいに聞こえるのは。






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