たったひとつの恋をください
第四章 「夏の終わりに」
鐘が鳴って、シャープペンを机に置く。
ようやく今日で、二週間の補習の末の追試が終わった。
明日からはもう学校に来なくていいんだって思うと、晴れ晴れした気分だ。
「あーっ、やっと終わったねえー!」
琴里が、う~んと伸びをしながらこっちを振り向く。
「ナナちゃんに教えてもらったとこ、いっぱい出たね!ほんと助かったよー」
「でしょ」
最初に、勉強教えて!って泣きつかれたときは、正直面倒でしかなかったけれど。そんな風に感謝してもらえるのは、案外まんざらでもなかったりして。
「でも、ナナちゃんに会えなくなるのはやっぱり寂しいなあ」
笑っていたかと思えば、急にしょんぼりと眉を下げる琴里。
「あっ、そうだ。ケータイの番号教えてよ。そしたらあたし誘うし」
「ごめん。ケータイ持ってないんだ」
「ええっ!嘘っ!?もしかして遠回しに拒否られてる?」
「いや、ほんとに。友達いないし、別になくても困らないから」
「そ、そんなぁ……」
ふにゃ、と今度は泣きそうになるから、びっくりした。
そんな、大げさな。ケータイって、そんなに大事なものかな?