たったひとつの恋をください
八月も終わりだというのに、暑さは毎日、ちっとも引く気配がなくて。
こんなときに、こんな暑苦しいものを体に巻きつけるなんて、私にはちょっとどうかしてるとしか思えない。
「ナナちゃん、浴衣どれがいいー?」
琴里が用意していた浴衣は、なんと五枚もあった。
色も柄もバリエーションが豊富で、しかも髪飾りや巾着や下駄まで、それぞれ浴衣に合わせて用意されている。
まるでお店の棚でも眺めてるみたい。
「すごいね。なんでこんなに浴衣持ってるの?」
並べられた色とりどりの浴衣に、私は思わず目を見張った。
「うち、和服屋やってるから。お母さんが、毎年自分ののついでに用意してくれるの。私もときどきお店手伝ってるしね」
「へえ~……」
なんて気の利いたお母さんだろう。
私なんて、子ども用のが一つあるだけで、大きくなってから浴衣なんて買ってもらってないのに。