たったひとつの恋をください
『祭りの日はうちに来てね』
そう言われた通りに渡された地図通りに行くと、探さなくてもその大きな家は目立っていたから、すぐにわかった。
『羽川』と品のいい表札のかけられたその家は、赤茶色の煉瓦造りのお洒落な家で、広い庭には赤や白の薔薇が花壇いっぱいに花を咲かせていた。
ついつい見惚れて突っ立っていたら、気づいたらしい琴里がドアを開けて、「いらっしゃい」と笑顔で出迎えてくれた。
もうすでに琴里は浴衣に着替えていて、お団子にまとめた髪や、メイクまでバッチリだった。淡いピンクの生地に紫の蓮の花が浮かんだ可愛らしい、琴里にぴったりの浴衣。
どれもすごく可愛い。だけどそれを自分で着るのは、やっぱり少し抵抗がある。
だって浴衣でお祭りなんて、いかにも「気合い入れました」って言っているようなものだし。
琴里はデートだからいいけど、私は違うのに。
「ナナちゃんには、この金魚の浴衣が合うと思うんだよねー」
と琴里が指したのは、淡い水色の生地に、小さな金魚の柄がついた浴衣。帯は夕陽みたいに濃いえんじ色で、髪飾りも巾着もお揃いの柄。
確かに、五つのなかでもそれは、ひときわ目を引いた。でも。
「こんな明るい色の、私には似合わないよ」
私は苦笑しながら言った。
これを着ている自分がまったく想像できない。私には別の、紺や深い色のほうがまだしっくりくる気がした。
だけど琴里は、自信満々に首を横に振る。
「ううん、絶対似合うよ。嘘だと思うなら試しに着てみてよ」
「じゃ、じゃあ、着てみるだけ……」
「そうこなくちゃ♪」