たったひとつの恋をください




それからは琴里のなすがままだった。


その慣れた手つきに、改めて感心する。
ヘアアレンジだけじゃなくて、着付けまでできちゃうんだ。人のをやるって、自分のより難しそうなのに。


本当、デキた女の子だなってつくづく思う。ちょっと勉強が苦手だったり、抜けたところはあるけど。


……でもきっと蓮は、琴里のそんなところも全部、可愛いと思えるんだろうな。


そう思ったらふいに、胸がきゅうっと締め付けられるように苦しくなった。


ーー羨ましいって、一瞬、思ってしまった。


そんなはずないのに。


どうしてここで、蓮の顔が出てくるんだろう。



「でーきたっ♪」


琴里が楽しそうに言って、目隠しをされて全身鏡の前まで連れて行かれた。


「はい、いいよ」


そう言うと、華奢な手をゆっくりと離す。


私はおそるおそる鏡を見て、目を見開いた。



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