たったひとつの恋をください
そこには、普段とはまったく違う、「女の子」の私がいた。
薄いメイクだけでも、ノーメイクの状態とは驚くほど雰囲気が変わる。
アップにまとめられた髪には、えんじ色の艶やかな髪飾りがついていて。絶対似合わないと思っていた明るい色合いの浴衣も、着てみるとすごく馴染んで見えた。
「これ、私……?」
「ねっ、似合うでしょ?」
得意げに胸を張る琴里に、私は感動してコクコク頷いた。
こんなの絶対私には似合わないって、思ってたのに。
「ナナちゃんはクールだし大人っぽいけど、意外とこういうのも似合いそうだなって思ったんだ」
「すごい。琴里、すごいよ」
「えへへ。なんか照れるけど、嬉しいな。将来はうちのお店のお客さんに、こんな風にコーディネートしてあげるのが夢なんだ」
「うん、できるよ、絶対」
むしろ今でも充分、そう言おうとしたとき。
でもね、と琴里の言葉が遮った。
「でもその前に、あたしはナナちゃんと友達になりたいなあ」
「……友達?」
「この前、言ってたでしょ。友達いないからケータイも必要ないって」
あっ、と思い出した。
すっかり忘れてたけど、そう言えば、そんなようなことを言った気がする。
何気なく言った言葉だった。
まさか琴里が気にしているなんて、思いもしなかった。