不器用男子に溺愛されて
よし、帰ろう。そう思ったその時、突然、オフィスのドアが開いた。私が反射的にそのドアの方に顔を向けると、ドアの隙間からは理久くんが顔を出した。
「何やってんの」
「わあ、理久くん」
理久くんの顔を見た瞬間、自然と上がる私の口角。
「えっとね、正規雇用してもらえるように、ちょっと頑張ろうかなって思って、溜まってる作業とかを済ませてたの」
理久くんは、ふーん、とだけ返事をすると、オフィスの電気をつけて中へと入ってきた。
「また何か言われた?」
「え?」
「何かまたミスして注意されたから、そんな風にして残業までしてるんじゃないの」
中に入り、私のそばへとやって来た理久くんが私の隣のデスクへ腰をかけた。
腰をかけ、イスの向きはそのままでデスクに頬杖をついて顔だけを私の方へ向ける。少しだけ近い距離で合う目に、私の胸はどくん、どくん、と高鳴っていく。
「……うん。ちょっとまたミスしちゃった。ミスして、また迷惑かけて怒られちゃって、だから、もっともっと頑張って正規雇用してもらおうと思って」
「小畑、そんなにこの会社で正規雇用して欲しいの?」
「え? う、うん。だって、この会社好きだし、それに、また新しい所に行くとするなら年齢的にもそろそろ正社員にならないとだから派遣はやめて就活しないとだし……それに……」
「辞めたらいいじゃん」
理久くんと一緒にいたいから。と、そう言おうと思った私の言葉を遮り、理久くんが発したのは信じられない言葉だった。