不器用男子に溺愛されて
「えっ?」
「毎日のように注意されてさ、嫌じゃないの? 正直、ここで正社員になるなら今よりもっと大変になると思うし、そうなると小畑、自分のしたいこと出来ないんじゃないの」
私は、小さな頃からイラストレーターになるのが夢だった。だから、休日はよくイラストを描いたりしている。
確かに、この仕事を始めてからイラストを描く時間は大幅に減ってしまったし、絵を描きたくても描いているどころじゃないのが現状。しかし、生活をしていくには働くのをやめるわけにはいかないし、夢は捨てるしかないと考えたりもする。
そのことを理久くんが気遣って言ってくれているという事実に、心がきゅっとなった、その時。
「何のために正社員に拘ってるのか分からないけど、正直、この仕事は小畑には向いてない。ここで正規雇用される必要はないと俺は思うよ」
「えっ……」
「だって、そうだろ。ミスが多いし、作業ひとつ覚えるのに周りの誰よりも時間が掛かる。正規雇用されれば、この会社の社員にしか担当できない仕事も割り振られるわけだし。まあ、最終的に決めるのは小畑だけど、もうちょっと頭使って考えてみたら」
じゃあ、と言って理久くんがオフィスを後にした。
ばたん、と音を立てて閉まったオフィスのドア。私は、そんなオフィスの中で一人静かに涙を零した。