不器用男子に溺愛されて
「まあ、そこに関しては私も加奈代さんに同意見かな」
「えっ!咲ちゃんまで」
咲ちゃんまで加奈代さんサイドに行ってしまった。ああ、もう、私の周りに味方はいない。
「でも、理久くん本当に良い人なの!ちょっと厳しいけど……でもね、本当に、本当は優しいの」
「どこが」
私の言葉に、すかさず咲ちゃんがそう聞いた。
「優しい表情をしたりね、可愛がってるところとか……」
「誰を」
優しい表情と瞳を浮かべている理久くんを思い浮かべる。すると、またもや咲ちゃんが私にそう聞いた。私は、少しだけ眉尻を下げて口を開いた。
「ね、猫……」
思い浮かべた理久くんが、優しい表情をして視線を向けているのは、私ではなくて猫に向けて。決して、私ではない。
「本当に、みや子ちゃんはどうして堀川と付き合ってるわけ?」
加奈代さんの言葉に、私の眉尻はまたさらに下がる。
理久くんと付き合い始めて、早半年。
しかし、私はたったの一度だって、思い浮かべていたような優しい表情を向けられたことはない。好きだと言われたこともないし、キスや、手をつないだことなんてもちろんあるはずもない。
だけど、それでも私が彼と付き合っている理由なんて、一つしかなかった。
───私は、理久くんの事が好きだから。
それ以外に、理由なんてあるわけがない。