不器用男子に溺愛されて

「まあ、そこに関しては私も加奈代さんに同意見かな」

「えっ!咲ちゃんまで」

 咲ちゃんまで加奈代さんサイドに行ってしまった。ああ、もう、私の周りに味方はいない。

「でも、理久くん本当に良い人なの!ちょっと厳しいけど……でもね、本当に、本当は優しいの」

「どこが」

 私の言葉に、すかさず咲ちゃんがそう聞いた。

「優しい表情をしたりね、可愛がってるところとか……」

「誰を」

 優しい表情と瞳を浮かべている理久くんを思い浮かべる。すると、またもや咲ちゃんが私にそう聞いた。私は、少しだけ眉尻を下げて口を開いた。

「ね、猫……」

 思い浮かべた理久くんが、優しい表情をして視線を向けているのは、私ではなくて猫に向けて。決して、私ではない。

「本当に、みや子ちゃんはどうして堀川と付き合ってるわけ?」

 加奈代さんの言葉に、私の眉尻はまたさらに下がる。


 理久くんと付き合い始めて、早半年。

 しかし、私はたったの一度だって、思い浮かべていたような優しい表情を向けられたことはない。好きだと言われたこともないし、キスや、手をつないだことなんてもちろんあるはずもない。

 だけど、それでも私が彼と付き合っている理由なんて、一つしかなかった。

 ───私は、理久くんの事が好きだから。

 それ以外に、理由なんてあるわけがない。


< 3 / 94 >

この作品をシェア

pagetop