不器用男子に溺愛されて

 佐伯さんが去り、少ししてから私もオフィスへ向かって歩き出した。すると。

「あっ」

 廊下の突き当たりを左へと曲がったその時、ちょうどこちらへとやって来ていたらしいある人と鉢合わせてしまった。

 そのある人とは、私のことを冷たい視線で見ている。私は、その冷たい視線に早くも泣きそうになった。

「理久くん……」

 思わず、名前を呼んでしまった。

「その呼び方、もうやめてくれない。もう別れたんだし」

「あっ、う……うん。そうだよね。ごめんね」

 私は、今更ながら理久くんと別れたという現実を理久くんの言葉により突きつけられ、思い知った。

 ごめんね、と言ってから少しの沈黙の空気が流れた。その間にも、私は涙を堪えるのに必死で、ずっと下唇を噛み締めていた。

 すると、この沈黙の空気を先に破ったのは意外にも理久くんの方だった。

「早くも他の男に乗り換えようとしてるんだって?」

「えっ?」

 理久くんの言葉に、私は間抜けな声を漏らした。

「俺と付き合ってる頃からだけど、時々佐伯さんと二人で話してたよな。そんな顔してるけど、実は俺と別れられてちょうど良かったんじゃないの?」

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