不器用男子に溺愛されて
私が、冷たくて性悪社員とまで言われている理久くんのことを好きになったのは、今から一年前。この会社に派遣されてからちょうど一年が経ったくらいの頃だった。
やっと事務の仕事に慣れてきて、でも、教えられたことをこなすのが精一杯。しかし、周りからは教えられたこと以上の事を求められるようになっていた。そんな、焦りが募りに募っていた頃。
私は、よく色んな社員さんに指摘を受けていた。もちろん、それは理久くんにも。
「これだから派遣は」
「事務の仕事くらいは気を利かせてやってくれ」
なんて、よく言われて凹んでいたのを覚えている。理久くんにも「言われたことまでしか出来ないようなら、正直いてもいなくても同じなんだけど」と言われたことがあった。
正直、その頃の理久くんは怖くて、苦手な社員さんというような存在だった。出来ることなら関わりたくない。そう、思っていた。
だけど、そんなある日の退勤時刻の18時過ぎ。私は、会社付近の並木道に今までに見たことが無いような優しい表情を浮かべている理久くんを見つけたのだ。
私は、木に隠れるようにしながら理久くんへと近づいた。すると、理久くんが優しい眼差しを向ける先には、ダンボール箱に入っている白い猫がいた。少しだけふくよかで丸いフォルムが可愛らしいその猫は、理久くんの指先に優しく撫でられ気持ちよさそうにしている。