不器用男子に溺愛されて
私達三人は、引き続き木の陰に隠れながら理久くんが会社から出てくるのを待った。
すると、10分も待たないうちに会社のガラス扉の向こう側から理久くんが姿を表す。ドクン、と跳ねた心臓を抑え、私は大きく深呼吸をした。
「小畑さん、ファイト!」
「みや子、私達ここにいるからね。頑張って」
「うん!二人とも、ありがとう」
両手に拳を作り、言葉で私の背中を押してくれる二人。そんな二人にお礼を伝えた私は、一人では踏み出せなかった足を一歩、前に踏み出した。
一歩、また一歩と前に踏み出し、会社のガラス扉の前に立つ。すると、向こう側から歩いてきて自動扉から出てきた理久くんが私を見て大きく目を見開いた。
「……ほ、堀川さん」
つい〝理久くん〟と呼んでしまいそうになる口に、慣れない堀川さん呼びをさせる。目の前にいる理久くんは、少し驚いたような表情で私の前に立ち止まっている。
「ちょっとだけ、話したいことがあるんですけど……ダメ、ですか?」
ドクン、ドクン、と色々な意味で高鳴る鼓動。それは、恋の高鳴りはもちろん、緊張と、恐怖と、たくさんの意味が含まれた鼓動。
「何。俺は、もう話すことなんて何もないけど」
理久くんの表情は、冷たい。
その冷たい表情に、少しだけ怯んでしまいそうになったけれど、私はごくりと唾を飲み、口を開いた。