不器用男子に溺愛されて

 いつも、パソコンと向き合い機械設計の仕事を行なっているか、あるいは、厳しく部下を注意しているか。そのどちらかの理久くんしか見たことがなかった私には、とんでもなく衝撃的な瞬間だった。それは、単に驚いたという意味と、一気に恋に落ちるかのような衝撃もしっかりとあった。

 それからというものの、理久くんの猫に向けていた表情が忘れられず、私は仕事の帰りに必ず猫を可愛がりに行く理久くんの後をつけていた。

 今思えば、よくそんなストーカーのような行動をしていたな、と自分を恐ろしく思うけれど、そんな私の行動は簡単に理久くんにバレてしまったのだ。いや、正しくは、後をつけている私にずっと気づいていたけれど、気づかないふりをしてくれていた。


 ある日、いつものように仕事帰りに理久くんの後をつけ、白猫を可愛がる彼を見ていると突然雨が降った。

 段々と強くなる雨から守るように、猫を抱え上げた理久くんは、傘を持っていない。私は、折り畳み傘をカバンの中から取り出すと、無意識のうちに理久くんのそばに立った。

 お気に入りの小花柄の折り畳み傘を理久くんと白猫の上あたりに浮かす。すると、理久くんは少しだけ驚いたような表情をして顔を上げた。

< 5 / 94 >

この作品をシェア

pagetop