不器用男子に溺愛されて
「何。鬱陶しい」
森田さんの視線に気づいたのか、理久くんは視線を少しだけ上げて森田さんを見ると、そう不機嫌そうに言い放った。
「いや? 別に何でもないけど、小畑ちゃんと話さなくていいのかなーって」
「余計なお世話。本当、お前はさ……」
「あー!ねえ、咲ちゃん咲ちゃん!せっかくだし、俺とこっちで一緒に食べない? この間のデートも二人じゃなかったしさぁ、お詫びにご飯くらい一緒に食べてよ」
突然、大きな声を出した森田さんがカレーライスの乗ったトレーを持ち上げ、咲ちゃんへと駆け寄った。
断るであろうと思っていた咲ちゃんは、何かを察したかのように森田さんとアイコンタクトをとると「しょうがないわね」なんて言いながら少し離れた席に森田さんと腰をかけてしまった。
離れて行ってしまった二人のおかげなのか何なのか、私と理久くんはふたりきりも同然。私は、少しばかり不機嫌そうな理久くんにどう話しかけるべきかと悩み続けていた。すると。
「座ったら」
「え?」
「弁当、食べないの?」
「えっ……た、食べる!」
一瞬、私達二人の間に流れた沈黙のような空気を先に壊したのは意外にも理久くんの方で、私はその理久くんの言葉に口角を上げると慌てて彼の向かい側のイスに腰をかけた。