不器用男子に溺愛されて
「ついに出てきたんだ」
「え?」
「気づいてないとでも思ったわけ? 今まで、木の陰からストーカーみたいに覗いてたの」
趣味悪いよね、と言った彼に私は穴があればすぐにでも入りたい気持ちだった。
「すみません」
ぼそり、と小さく謝った。そんな私の言葉になのか、それとも、そんな私の言葉に関係なくなのか、彼は視線は猫へと向けたまま、また優しく口角を上げて笑った。
「猫、好きなんですか?」
何となく、私がそう問う。すると、彼はやはり視線を猫へと向けたままで「想像に任せる」と答えた。
「え、あ、はい」
その返答に私は何と返せばいいのか分からず、この先に会話が続かないような返事だけをしてしまった。
ああ、もっと会話が続くようなことを言えばよかった。
私がそう後悔をしていた時、二人と一匹の猫の間に流れていた沈黙を破ったのは、意外にも彼の方だった。
「似てる」
突然、彼が猫を抱き抱えたままで立ち上がった。そして、私の顔の横あたりにその猫を持ち上げた。
「え?」
私の横には、白猫の少しだけだらしのないふくよかな身体がぶらりと宙に浮いている。
彼は、この猫と私を似ていると言ったのだろうか。