不器用男子に溺愛されて
「なに、あれ」
「えっ?」
「人の気も知らないでさ。佐伯さんも佐伯さんだけど、小畑にも自覚が足りないんじゃないの」
俺の彼女だって自覚が、と付け足した理久くんは私のすぐ目の前に立ち、私のことを見下すように見ている。これは、多分……いや、絶対にこれまでにないほど怒っている。
「理久くん……?」
「小畑は、俺が嫉妬しないとでも思ってるわけ? それとも何、俺のこと試してるとか?」
「理久くん、ごめ……」
「もうさ、こっちは気が気じゃないんだけど。自分の彼女が目の前であんな風に他の男と話してたら気にならないわけないから」
理久くんが、嫉妬してる。
私は、こんな状況だというのに、理久くんが嫉妬をしてくれたという事実が嬉しくて仕方がなかった。
「あー、情けな」
私から少し距離をとり、髪をかき乱しながら自己嫌悪に浸っているらしい理久くん。私はそんな理久くんを何だか愛おしく思いながら見ていた。
「理久くん」
理久くんに声をかける。だけど、理久くんから返事は返ってこない。
「理久くん、あのね……理久くんを嫉妬させようとしたつもりは全然なかったの。だけど、嫌な思いさせちゃってごめんなさい。……でもね、私、理久くんが嫉妬するなんてこれっぽっちも思ってなかったから、今ね、すごく嬉しいと思っちゃった」
理久くんが、はあ、と溜息をひとつだけ零した。
「本当、小畑のそういうとこ……」
「え?」
「いや、何でもない。引き止めて悪かった。仕事戻ろうか」
何かを言いかけ、それをやめた理久くんは、そう言うと先に給湯室を出た。私はそんな理久くんを追うように給湯室を出るとオフィスへと戻り、高鳴る胸の鼓動を抑えきれないまま作業を始めた。