不器用男子に溺愛されて
「パンプス履いたならリップも塗る!ほら、リップ持ってるでしょ? お手洗い行くよ」
「あっ、え、咲ちゃん!」
私は、半ば強制的に誰もいない女子トイレへと連れてこられると、リップをカバンから出し、それを咲ちゃんに手渡した。
「赤に近いって言っても、真っ赤じゃないから大丈夫。確かにみや子はいつもナチュラルメイクだし、慣れないかもしれないけど、堀川さんのためでしょ?」
「う、うん……分かった」
そうだ。理久くんの彼女としてレベルアップする為だ。あの元彼女に理久くんを取られてしまうわけにはいかない。それだけは、何としてでも阻止せねば。
私は、意を決して口を閉じた。咲ちゃんにリップを綺麗に塗ってもらい、その上から薄くグロスを重ねた。
「よし、オッケー。うん、可愛いじゃない」
「あ、ありがとう」
「いいえ。それじゃあ、堀川さんに見てもらうためにもオフィス戻らないとね」
そう言って笑った咲ちゃんがトイレから出て行く。私も、重たい足取りでトイレから出ると、目の前に立ち止まっていた咲ちゃんの背中が、私の額に当たった。