不器用男子に溺愛されて

「咲ちゃん?」

 立ち止まったまま動かない咲ちゃん。どうしたのだろうかと、咲ちゃんの顔を覗き込む為、咲ちゃんの背中から顔を横に出してみると。

「り、理久くん……」

 咲ちゃんの前には書類を片手に立ち止まっている理久くんがいた。

「みや子、私先に帰ってるね」

 咲ちゃんは、〝アピールしなさいよ〟とでも言うように私にウィンクをして去っていった。

 取り残された私は、どうすればいいのかとキョロキョロしてしまい明らかに挙動不審。しかし、こんな風に挙動不審な行動を取っていたってアピールにも何にもならない。しっかりアピールをして勝ち上がらなければ。生きなければ。

 今、私は理久くんという名の地の崖に立っているのだから……!


「り、理久くん!おはよう!今日はいい天気だよね」

 私の脳内には今、お高い服やバッグを持つ綺麗な女性が浮かんでいる。何となく、そういう人たちは〝良い天気ね〟と言うのではないかと思ったのだ。

「ああ、うん。っていうか、それよりさ……」

 私のよくわからない思考回路の末に出た言葉は軽い返事で終了。そして、次に口を開いた理久くんの口から発せられる言葉を待っていた。すると。

「なんか、今日の小畑、いつもと違う」

 なんと、理久くんの方から私の変化に気づいて、ふれてくれた。

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