不器用男子に溺愛されて
理久くんが変化に気づいてくれた。それだけで私の胸はいっぱいだった。嬉しくて、それだけで幸せな気持ちになっていた私の目の前に立つ理久くんの手が、突然、ふと私の口元に触れる。
「へっ⁉︎」
「なに、これ」
理久くんの親指が拭い取ったリップの色。限りなく赤に近いような濃いめのピンク色が理久くんの親指のお腹についている。
「なんか、身長も伸びた気がするし……急に何。どうかしたの」
「え、えっと……」
意外にも鋭い感覚を持っているらしく、リップを親指で拭いとるという驚くような行動までとった理久くんに私は正直まだ混乱中だった。
「あ、何かあるって顔してる」
「えっ⁉︎ な、何もないよ!ない、と思う……」
どんどん小さくなる私の声。何もないと言い張るべきなのだけれど、言い張ったって理久くんには見透かされそうな気がしてきたのだ。
「ねえ、何かあるなら言ってくれないと分からないんだけど」
理久くんがそう言って私が答えるのを待った。
「……あ、あのね」
私は、一人うじうじと悩み続けた。悩み、唸り、考え続けた末、やっとゆっくり口を開き、全てを明かすことに決めた。