恋して愛して


―――――【恭介 side】

俺は母親が好きだった。シングルマザーで、俺を育ててくれていた。

小学校に上がる前に、母親は俺を置いてどこかへ消えた。

このときの絶望感は今でも忘れない。


誰もいなくなった家に、ただ一人でいることが苦しかった。

狭い借りてる家が、広く感じた。


母親が残したのは、押し花とココアの作り方だけ。

俺はその二つを持って子どもながらに、助けを求めてた。

運良く通りかかったのが、養護施設のおばちゃんだ。


「あれ?ぼくは何してるの?お母さんはどこに…」

「いない。いない。いない。」

そのときまで涙は出さなかったが、おばちゃんに話しかけられた安心感、母がいなくなったという再びの絶望で涙が溢れてきた。


そのおばちゃんは、自分の務めている施設へと案内してくれた。

「今日から家族が増えました!名前は、藤崎恭介君です。みんな仲良くしなさいよ~」

今度は若い人が俺を紹介する。


そのときはとにかく仲間ができて嬉しかったけど、寂しさは残ったままだ。
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