甘めな毒
Sugarless boy
ピピーッ!体育館にホイッスルの音が鳴り響く。それを合図にさっきまでバスケの試合を行っていた女子生徒達が先生の前に集まった。私もその波に遅れないよう慌てて駆け出す。
ふとグラウンドの方に視線を向けてみると、男子達はどうやらサッカーをしているみたいだった。
先生の話を流しつつ外の景色に気を取られているうちに授業の終わりを告げるチャイムが鳴った。散り散りになっていく人の合間を抜けてグラウンドに出てみると、木陰の下にはやっぱり見知った小さな背中があった。
「雅、次移動教室だよー」
「うん……!」
返事をしながらも私の足は自然とグラウンドに向かい始めていた。
近づくほどに小さな背中は大きくなっているはずなのにそれでもやっぱり小さく見えてしまうのは、彼が人並み以上に細いからだろうか。
木陰の下、さわさわと吹く風に彼の綺麗な黒髪が揺れた。膝を立てて蹲るその姿は一見すると人形にも見えなくはない。
「梶くん、授業終わったよ」
「………」
声をかけてみたけれど、ピクリとも反応がない。まさか本当に人形だったりして。
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