甘めな毒
「ゲームって難しいんだね……」
「いや、今のレベルで難しいとか言ってたら全クリとかムリゲー」
「ごめん、それ何語?」
「日本語」
梶くんも最初のうちは嫌そうな顔をしていたけれど、だんだんと慣れていくうちに心を開いてくれている。と、思う。少なくともこうしてゲーム機も貸してくれるし、傍にいても何も言われないから大丈夫だと思いたい。
コロッケパンを食べ終えた梶くんは地面に置かれたゲーム機を持つと私がなかなかクリアできなかったエリアを挑戦し始めた。私はそれを横から覗き込む。
梶くんの指がさっきの自分とは比べ物にならない速さで動き、つい今しがた私が躓いたところも難なくクリアしてしまった。もはや動きが別次元すぎて若干引いてしまう。
このゲームをクリアする為には梶くんのレベルにまで到達しなくてはならないのかと思うと、何年かかっても無理な予感しかしない。
そんなことを思っていると、ボタンを押す指の速さは緩めないままに、梶くんが「あんたさ」とうわ言のように声をかけてきた。
「何であの時泣いたの」
「………」
カチカチ、カチカチ。ゲーム機のボタンを押す音が静かな二人の空間に響く。
「……別に、答えたくないならいいけど」
それを言い終わるのが先か、ゲーム機からはさっきゲームオーバした時とはまるで違うやけに賑やかな音声が流れた。
画面からようやく顔を上げた梶くんが私を真っ直ぐに見据える。目が隠れてしまいそうなほど長く伸びた前髪が風に揺れて、その隙間から真剣な瞳が見えた。
こんな時ばっかり私の目を見てくるから、梶くんはとてもズルいと思う。