甘めな毒
私は地面に視線を移してから、ポツリと言葉を零した。
「泣いた理由は、自分でも分からない」
「………」
「でも、梶くんは正しかった。私が中島を好きだっていうのは本当だよ。でも、この恋はもう終わってるの」
「それってどういう……」
「前に一回、告白してるの。それでフラれた、きっぱりと。俺は沢田のこと友達としてしか見たことないって」
人生で初めてのあの日のことは未だに忘れられない。頭の中が真っ白で、悲しいとか悔しいとかもなく、ただ終わったんだってことだけがハッキリとしていた。今思い出しても、あの時の私は本物のばかだったと思う。
中島が優しくしてくれたり、中島が頼ってくれたりする度に期待がどんどん膨らんで抑えきれなくなって、いざ伝えてみれば友達だからという、よくある勘違いでしかなかったのだ。
「だから中島の前ではもう未練なんてないってフリしてる。もう君のことなんて何とも思ってないよーみたいな。でも内心はそんなこと全然なくて、今でも好きだし……」
自分で言ってて、情けなくなってきた。昔だって今だって私はバカのままなのだ。
無駄に膨れ上がってしまった期待は、中身が私の望んでいたものとは違うと分かっていても、それを消化してなかったことのように振る舞うことはできない。
からっぽの胸に残った好きという感情だけは、自分の力ではどうすることもできないのだ。
「そういうの、よく分からない」
「え?」
「何でそんな風に誰かのことを想えるのか、分からない」
顔を上げて、梶くんを見る。うつむき加減なその横顔が、まるで一枚の絵画を見ているかのようで、とても綺麗だった。