甘めな毒
「何で、また泣いてんの」
「……っ」
梶くんがゆっくりと此方に歩み寄ってきたかと思えば、鞄の中から真っ白なハンカチを取り出した。
「使えば」
梶くんらしい一言だった。優しい言葉の一つもかけてはくれないけど、そのたった一言がどんな慰めの言葉より優しく聞こえる。それは梶くんだからかな。
「あ、あり、がと……」
しゃくり上げながらも何とかお礼を言ってハンカチを受け取る。
「何か、あんたと顔合わせるといつも泣いてるか泣きそうな顔してるような気がする」
「……そうだね」
初めて話した時も泣いてたし、いつも梶くんには情けないところばかり見られている気がする。
「中島、好きな子いるみたい。またフラレちゃった。はは……」
「笑わなくていい」
「……っ」
「別に、泣いてもいいから」
そう言って梶くんの温かな手が私の頭に触れた。ほんの少し緊張しているのか、震えているところが梶くんらしくてホッとする。胸の奥に詰まった何かが少しずつ解けていくようだった。