甘めな毒
「梶く……「おい、梶ー!ボールの片付けくらい手伝えよ!」
私の声に重なって響いた男子生徒の声に梶くんは気だるげな動作で顔を上げると「チッ」と小さく舌打ちをした。
見下ろしていてもわかる、梶くんは今すごく不機嫌だ。
「ふ、ふふっ」
思わず笑ってしまった。
さっきまでまるで私に興味を示さなかったはずの梶くんが此方をギロリと睨みつけてきたので、緩んでいた口元を慌てて引き締める。
「あれ、沢田じゃん。どうした?」
梶くんを連行しにやってきた同クラスの中島が私に気づいて目を丸くした。
「男子はサッカーやってたんだ」
「うん、女子は?」
「バスケ」
「いいなー俺もバスケしてー」
「放課後になればいつだってできるじゃん」
不服そうに唇を尖らせる中島に思わず笑みがこぼれる。
中島とは中学の頃からの知り合いで、その時からずっとバスケ部に入っている筋金入りのバスケ馬鹿だ。
「そうだけど、もうすぐテスト期間じゃん?バスケできないとか死ぬわ」
「でもこのままじゃ卒業すら危ういんじゃない?」
「ええー困るけど、もし留年してもバスケ部入ろ」
「バスケ馬鹿は健在ですね」
「おう、あったりまえじゃん」
そんな話しているうちに中島がホールドしていたはずの梶くんがどこかに消えてしまっていた。
「あいつ、またサボりやがって……」
中島はぶつくさと文句を垂れながらも「それじゃ、俺探してくるわ」と言ってあっさりと背を向けられてしまった。