甘めな毒
画面の中のキャラが武器を持って駆け出す。するとすぐに敵が向かい側から現れた。
「うわっ、難しい!」
「そこ右」
「え、こう?」
「違う。右人差し指押してから右親指で連打」
「おお!すごい!動きがかっこいい!」
「いちいちうるさい、集中して」
「は、はい……」
「そんで、そこで左と右同時に押す。そう、そのまま一気に攻め込む」
「………っ」
カチカチッ。
「………」
「………」
カチカチ、カチカチ。
「………」
カチカチカチカチ。
「……普段うるさい奴が静かだと気が散るんだけど」
「どうすればいいのさ!?」
と、そんなこんなしているうちに敵がわらわらと此方に集まってきた。これはまずい、数が多すぎて太刀打ちできない。昨日も見たゲームオーバーの文字が脳内に浮かぶ。
「こんな数こられたら、む、りっ!」
「あー、だからそこはこうして……」
梶くんの声が耳元で聞こえた。次の瞬間には後ろから腕が回ってきて、ゲーム機を持つ私の手に覆いかぶさるように梶くんの手が重なっていた。近すぎてゲームに集中できない。