甘めな毒



「話聞いてる?」
「き、聞いてますっ」


 全力で嘘をついてしまった。けれどまさか本当のことなんて言えるわけもない。


「もうちょっと、右、右押して」
「はいい!」


 ワケがわからないままとにかく右のボタンを連打する。すると気づけばゲーム機からはいつもの賑やかな音楽が流れていた。


「クリアできた」
「お、おお……すごい」
「何それ、反応薄」
「いや、だって……」


 梶くんが近くて、何か石鹸みたいないい香りがしたし、そんでもって梶くんの手が思ってたより大きくて、ゲームどころじゃなかった。破壊力がすごすぎる。さすが高難易度男子。


「ていうかあの……そろそろ離れない?」
「あっ」


 梶くんはこの状況にたった今気がついた様子だ。慌てて私から離れるとばつが悪そうに視線を逸らされてしまった。


< 21 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop