甘めな毒
「えーっと、ありがと!」
「は?」
「おかげでここクリアできたし!」
「……ありがとうのバーゲンかよ」
「はい?」
「昨日からずっとありがとうありがとうって、あんまり安売りしてたら有り難みも半減していく」
「た、たしかに……」
「でも、まあ……どう致しまして」
相変わらずこっちはチラリとも見てはくれなかったけれど、梶くんの不器用な言葉に心臓が少しだけこそばゆくなった。
「何ニヤニヤしてんの、キモい」
「キモイとはなんだ、女の子に対して」
「ニヤニヤすんな」
「自然とこうなっちゃうんだよ」
「……変なやつ」
「梶くんも相当変なやつだけどね」
「は?」
「いや、睨まないで……」
「あんた見てると、むかつくから」
「酷い!」
「……ほんとに、むかつく」
「……?」
「教室戻るよ」
「え?早くない?」
「もう昼飯食べ終わったし、ゲームもクリアしたんだからいいだろ」
「そうだけど……」
もうちょっと梶くんと過ごしていたかった、なんて思うのはワガママかな。
振り返りもしない梶くんの背中を追って、私も慌てて駆け出した。