甘めな毒
「さっき、あんたと中島が楽しそうに話してるの見て、ここんとこ何か詰まったみたいに苦しかった」
梶くんが大きな掌で心臓の辺りの服をぎゅっと掴んでみせた。
「こんな気持ち知らない。意味わかんないし、イライラする」
「……梶くん」
梶くんの中にある感情を私は知っている。
誰かに優しくしたくなったり、誰かにイライラしてみたり、誰かを思って勝手に落ち込んでみたり、誰かの事を考えるだけで胸が温かくなったり。
「梶くん、それは、恋だよ」
甘いだけじゃない、沢山の感情がぎゅっと詰まっている。
梶くんはそれを知らないと言っていた。知らなくても生きていけると。
けれど彼は今、その答えを知りたがっている。
「あんたも、あいつのことを思って、こんなに苦しかったりしたのか」
「……したよ。沢山、沢山、した」
「………キツイな」
「うん、キツイ……」
梶くんは服を掴んでいた腕を力なく下ろすと、今度は私の頭に触れてきた。
「また泣きそうな顔」
「……ごめっ」
「いいよ、別に」
梶くんの温かな手がゆるやかに私の髪を撫でる。心地よくて、少しだけほっとする。