甘めな毒



 夕日の差す、放課後の教室。蝉の鳴き声が静かな教室に煩いほど響く。
 中島がいつも座る、黒板から一番近い真ん中の席。私は斜め後ろの列だから、いつも気怠げに授業を受ける中島の背中を見つめている。

 けれど、それももう疲れてきた。
 あるわけもないけれど、もしも、中島にこの気持ちを受け止めて貰えるならば、それってすごく幸せなことだ。こんな風に頭の中でグルグル考えずに済むのだから。
 ……それが叶わないならせめて私の中から消えてしまえばいいのに。

 そっと、指先を中島の机に触れさせる。机に書かれた馬鹿みたいな絵、ちょっとだけ残った消しカス、どれもが中島らしくて笑えてくる。


 ――――――ガタッ。


 後ろから聞こえた物音に肩がビクリと跳ね上がって、次に全身からサッと血の気が引いた。
 振り返るのが怖い。もしも中島だったら、いや、そうじゃないクラスメイトだったとしてもこの状況はマズい。
 でもこのまま目を逸らし続けたら、誰にどんな風に言いふらされるか分かったものではない。
 振り返るしかない。それで口止めしなくては。決意を固めて、ゆっくりと振り返る。
 その間も心臓はバクバクと嫌な音を立て、蝉の声がさっきよりも一層煩く聴こえた。


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