甘めな毒



「………っ」


 振り返った先にいたのは、同じクラスの梶くんだった。いつもは何に対しても興味のなさそうな瞳が、今はほんの僅かだけど見開かれている。
 私を見て、梶くんは教室の入口から動けないまま固まっているようだった。


「………」
「………」


 お互いに声をかけるタイミングを完全に見失っていた。喉の奥が固くて、呼吸すらもうまくできない。
 急な出来事に頭が混乱しているけれど、何も特別なことをするわけではない。冗談っぽく笑って、それから何もなかったように「梶くん元気?」とか適当に声をかければいいだけだ。分かっている。だからまずは笑顔を作って、声を……。


「あんたら付き合ってたんだ」
「……えっ」


 梶くんのセリフに思わず間抜けな声が漏れる。あれだけ頑張ってもなかなか出なかったはずの第一声になんだかとてつもなく恥ずかしくなった。
 そんな私とは対象的に、梶くんはどうやら冷静さを取り戻したらしく、いつもの気怠げな表情で教室の中に入ってきたかと思えば何やらロッカーの中を探り始めた。

 忘れ物でもしたのかな、なんて呑気なことを考えている場合ではないことに気づく。さっきのあのセリフは、もしかしなくても確実に誤解をされている。


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