甘めな毒



 梶くんはあまり周りの生徒とはしゃぐようなタイプでもないし、寧ろそういうのを嫌煙しているような印象がある。だからそこまで心配をする必要はないのかもしれない。けれど、誤解をされたままでいるのはいい気分ではない。というか寧ろ気が気ではない。
 油断していたらあっという間に変な噂が広まってしまう。それがこの学校という特殊空間なのだ。
 とにかく落ち着こうと深く息を吸って呼吸を整える。


「か、梶くん、これは……」
「別に、言いふらしたりしないし興味もない」
「違うの、そうじゃなくて……」
「いや、ほんと心配とか無用だから」
「だから違うの!付き合ってとか、そういうんじゃないの!」


 自分で思ったよりも大きな声が出てしまった。
 はっと我に返って梶くんを見ると、鞄を肩にかけて今にも教室を出て行こうとしていた梶くんが私を見て心底面倒くさそうに足を止めていた。


「ご、誤解されるのは不本意だし……付き合ってないから」
「ふーん」


 心の底からどうでもいいわ、と声が聞こえてきそうなほど興味のなさそうな返事だった。
 ここまで必死になって弁明したのが今更になってものすごく恥ずかしい。いっそこのまま放置して帰ってくれればいいのになんて、自分で引き止めておいて都合が良すぎるか。
 今すぐにでもここから逃げ出してしまいたい気分でいた時、意外にも先に口を開いたのは梶くんだった。


「じゃあ、あんたそいつのこと好きなんだ」


 不意をつかれた。ドスッと、言葉というナイフが心に深く刺さり、一瞬息をすることも忘れてしまった。


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