最後の瞬間まで、きみと笑っていたいから。
夏服への移行期間は1週間。6月の1日から。
私の通う私立高校には合服なんて便利なものはなくて。だから、どのタイミングで夏服に帰るのかは悩みどころでもあるんだ。
要するに、クラスでひとりだけ夏服になるのが、恥ずかしいっていうそれだけなんだけど。
「あー、アミカ寒がりだもんな。手とか冷たいし。よしよし、お兄ちゃんがあっためてやろう」
タケルはペンを持っている私の手を、両手で包み込むようにして引き寄せた。
「えっ、いつ私のお兄ちゃんになったの?」
「そりゃ物心ついてからずっとだよ。なんだよ、兄の愛が伝わってないのかよっ!」
目を見開いて、ワザと驚いたような表情をするタケル。いつもの家族ごっこだ。
「ふふっ、それはどうも。お兄ちゃん」
気安いタケルの言葉に、笑ってしまった。
ちなみにこの人懐っこさで、タケルは入学早々クラスでも人気者になった。
普段は引っ込み思案で言いたいことも言えない私には眩しく、本当に羨ましい。
「こらっ、気軽にアミカに触るなっ!」
突然、パシーンと小気味いい音が教室に響く。
「いってぇ!」
それまでニコニコしていたタケルは悲鳴をあげ私からパッと手を離し、腰に手を当て仁王立ちする彼女を見上げた。
「なにすんだよ、カナ!」