最後の瞬間まで、きみと笑っていたいから。
全身を叩きつける冷たい雨に、側溝に流れ込む大量の水。そしてピンクの桜の花びらが流れ着くその先にいたのは――。花や鳥だと見間違った、その腕。
今、私の手首を掴んでいる大きな手。
病院のベッドで見た顔と、今、私を見下ろしている顔が、初めて重なった。
どうして気づかなかったんだろう。
こんなきれいな顔してるのに。
「お前のせいで死ねなかった。お前のせいで、くだらない学校に行く羽目になった。何もかもお前のせいだ」
多賀宮くんは冷めた目で、私のせいだと言いながら、手首を掴む手に力を込める。
「そんな……」
人命救助をした。あの時の自分に、迷いはなかった。
けれど目の前の彼は、余計なお世話だったと私を非難する。
「どうしたらいいの?」
とっさにそんなことを口にしていた。
すると多賀宮くんはニヤリと笑って、私の体を引き寄せ、耳もとでささやいたんだ。
「お前は俺の学校生活のあれこれの面倒を見る義務があるんじゃないか?」
突然のことに頭が真っ白になった。