最後の瞬間まで、きみと笑っていたいから。

「夏に冬の空見るのも、なんか変だな」


今日はたまたま冬の空を見ていた。


冬の星座はわかりやすいから、つい選びがちになるだけなんだけど。


「春も見られるよ。見る?」


リモコンを持ち上げると、

「……いや、いいよ」

多賀宮くんは首を振った。


彼の向こうに蠍座から逃げるオリオンが輝いている。


「春の星は、春に見ることにする」

「そっか」


春の星座って何があったかなぁ、なんて考えていると、隣の多賀宮くんがポツリとつぶやいた。


「……なんか、礼をしなくちゃいけないんだと」

「え?」

「じーさんが、お前に、何かお礼をしろって」


話の流れがよくわからない。


「プラネタリウムのお礼ってこと?」

「まぁ……そうだな。考えとけよ。疲れないやつで頼む」


そして多賀宮くんは、星を見終えた後、何事もなかったかのようにうちを出て行った。

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