最後の瞬間まで、きみと笑っていたいから。

「今日は音楽関係の映画鑑賞の時間です。ニコロ・パガニーニを描いた作品です」


お母さんとそう変わらない歳の音楽の石川先生は、スクリーンを下ろし、ニコニコしながらDVDをセットする。


「先生、俺、クラシック聴いたら眠くなるんだけどどうしたらいいの」


タケルが不安そうに尋ねると、

「まあ確かにリラックスして眠くなる曲もあるけれど、パガニーニは違います。寝てなんかいられないわよ。来週、感想文を書いてもらいますから、ちゃんと見てくださいね」

それから視聴覚室の分厚いカーテンが閉められる。


席は横長の1枚椅子になっている。

私は1番後ろの出入口側にカナと並んで座り、メモのためのノートを広げた。


悪魔に魂を譲り渡して演奏技術を手に入れたという、ニコロ・パガニーニ。5歳でヴァイオリンを始め、13歳で演奏する曲がなくなったといわれる天才。

その技術でショパンやリストを虜にし、そして男としても、数々の女性と浮名を流してゆく。

映画の中のパガニーニは、天才で孤独で、愛に飢えた破滅型のロックスターだ。


誰も追いつけないような才能に溢れているのに、なにひとつうまくいかない。


私に才能があったなら、きっともっとうまく生きるのに。誰も傷つけず、音楽でみんなを幸せにするのに……。

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