最後の100日~君に幸あれ~
時計を見ると12時45分だった。
「…っ!」
俺はすかさず立った。
「二階堂どうした?」
「拓磨?」
ちょうど斜め前の祐一が驚いた顔でこっちを見ている。
「ちょっとやらなきゃいけないことがある。
…祐一…ちょっと来い。」
最後に祐一へ小さくいい奥村さんのクラスへ走った。
ガラッと大きい音を立てて開いた扉に奥村さんの他の生徒たちも驚いた顔をしていた。
奥村さんを連れ、廊下を走っていると祐一が突然止めた。
早くしないとあいつが消えてしまう。
早く行かないと。
ワケを話すと奥村さんは一人で走って行ってしまった。
すぐに俺たちも追いかけた。
屋上へ着くと大粒の涙を流す奥村さんの姿があった。
祐一には何が起こっているのかわからず戸惑った顔をしている。
「拓磨君酷いよ。
言わないでってお願いしたじゃん」
そう口にする顔は怒ってる様子ではなく、どこか嬉しそうで哀しそうな顔だった。
奥村さん達には俺みたいな後悔する別れ方をして欲しくないんだ。
奥村さんはただ泣くことしかできず、ルイが消えてしまうという現実を受け入れられていないようだ。
隣で祐一が察したように、ルイの存在に気づいた。
そして、ルイから言われた言葉をそのまま祐一へ伝える。
「頼まれなくても幸せにしますよ!」
という言葉とともにルイがいる方向を見る。
その言葉には、幸せにするから心配しなくても大丈夫という意味も込められていたと思う。
ルイには人間の形を保つ力がなくなり、本来の姿に戻ってしまった。
茶色の毛並みで、目がブルーの猫。
奥村さんは一目で愛猫だって気づいたみたいだ。
奥村さんとあいつには見えないけどとても強い絆が繋がってるんだな。
あいつの姿はだんだんと薄くなり、消えてしまった。
『僕が消えたら渡して』と言われていた白い封筒を胸ポケットから出し、奥村さんへ差し出した。
あいつが消えた。最後は後悔せずに消えていったのだろうか…。
ほんの少しだけでも俺は力になれたのだろうか。