だから私は、明日のきみを描く
ここなら、大丈夫。


遥はここには来ないし、陸上部の活動場所からもきっとここは意識されないから、

ここから見ている分には、大丈夫。


そう自分を納得させて、私は結局、いつもここから彼の跳ぶ姿を見ていた。


窓の外を気にしながら、パレットに絵の具を絞り出していく。


今描いているのは静物画だ。

空の花瓶と、鍵つきの木箱と、鳥籠。


下地を塗って、鉛筆で下描きをしてあるので、今日から色を入れていく予定だった。


溶き油で絵の具を薄める。

それを筆にとって、淡い色を大きくざっくりとのせていく。


ある程度描いたら、乾かさなければならない。

キャンバスを風当たりのいい方向へ向けて、無意識に外を見た。


彼方くんが跳んでいた。

全身のばねをつかって空へ飛び上がると、ほっそりとした筋肉や筋が浮かび上がるのがここからでも見える。


無駄なものが何ひとつない、流線形を思わせる伸びやかな身体だった。

なんて綺麗なんだろう。


彼を見ていると、どうしても描きたくなってしまう。


私はスケッチブックを取り出し、ページをめくった。

彼方くんを見ながら、3Bの柔らかい鉛筆でデッサンをする。

大まかな輪郭を描き、それから影をつけていく。


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