王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
第一章 黄金の王女
雷光が閃くほどの間に、男の腕に攫われていた。
翡翠色の瞳を持つ背の高い青年は、隣国の王族を示すインディゴブルーのマントで胸の中の少女をすっぽりと覆い隠す。
嗚咽を堪えて震える彼女を、これ以上他の者の目に晒すのは我慢がならなかった。
ブルネットの前髪がかかるアーモンド型の双眸は静かな怒りに燃えていたが、少女の肩を抱く大きな手のひらは優しく、彼女を傷つけまいとしている。
祝福の品を持ち寄り集まっていた人々は、自国の皇太子の妃となるべく王女を得体の知れぬ男に奪われ、突如として混乱の渦に飲み込まれた。
青年は左腕にしっかりと姫君を抱え、右手に騎士の剣を持って、敵陣に囲まれたまま毅然として言い放つ。
「我が名はエドワード・バロン、ナバ王国アルレオラ大公。ラナ・カリムルーは私の花嫁だ!」
■1■
鷲の紋章の軍旗を潮風に揺らし、一隻の船が霧の海から姿を現わす。
船首に立つ少女は、晴れ渡った青空の下に賑わう港を目にし、感嘆のため息を吐いた。
木賊色のマントのフードを外すと、豊かなプラチナブロンドの髪が風に揺れて頬を撫でる。
「見て、ヴィート! 港が見えてきた」
彼女は海風に舞い上がる髪にも構わず、後ろに控える壮年の男を振り返った。
浅黒い肌をした厳しい顔つきの彼は、しかめ面のまま応える。
「ラナ様、そのように身を乗り出されては危険です」
ラナは王立海軍の参謀総長兼王女の目付役をからかうように笑い、山の稜線や家々の屋根の色まではっきりと見え始めた陸地に視線を戻した。
木製のハンドレールに頬杖をつき、うっとりとしながら眩しそうに目を細める。
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