王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
「ラナ様、私は……」
拘束を解かれたキティは、震えながら王女に寄り添う。
このまま恐ろしい噂のある東の帝国へ連れて行かれるのも怖かったが、ラナの側を離れて彼女をひとりにさせることも怖かった。
ラナは侍女を勇気づけるように微笑む。
「私なら大丈夫よ、キティ。ちょっとあちらを冒険してくるわ。そのうちまた会いましょう。それより、殿下にお手紙をしたためてほしいの。きっと彼に渡してちょうだい」
実際のところ、エドワードへの手紙を書いてしまったら、もうナバへ帰ることは叶わないだろうとラナは思った。
しかしなにを引き換えにしても、彼女にはナバの王太子に伝えなくてはならないことがある。
ラナはマクシムに向き直って言った。
「マクシム、彼女に紙とペンを用意してあげて」
「報酬は?」
王女は片方の眉を引き上げて一時考える。
「腕輪をあげるわ」
「そうこなくっちゃ。気前がいいな」
キティはマクシムから渡された紙とペンを使い、手首を縛られている王女に代わって彼女の婚約者への手紙を書いた。
ラナの声に従い、一言一句違わぬように書き留める。
だけどそれを聞いているうちに、王女はもう二度とエドワードには会わぬ覚悟なのだとわかってしまったので、キティの目からは涙がとめどなく溢れるのだった。
ラナはこれからたったひとりで敵国へ乗り込むのだから、彼女の持てるものはすべて持っていかなくてはいけないと、キティは言った。
普段は首飾りや腕輪を特別好まないラナだし、彼女は宝石で飾り立てなくてもそのままで美しさを持っていたけれど、豪奢なものはそれに見合う人物が持てば威厳と気高さを示す道具になると。