王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
社交界デビューの前に王城に仕えるようになったキティは、あまり裕福ではない子爵家の三女だった。
その彼女が幼い頃に両親から譲り受けた指輪があって、それはとても大きな石のついた高価なものだったので、ラナの首飾りや腕輪の代わりにマクシムに譲り渡すことにした。
指輪そのものは手垢がついて古びた代物だったけれど、宝石のほうを切り出せば金貨が小袋いっぱいになるだろう。
マクシムは喜んで交換に応じ、それに加えて取引材料を上乗せしてくれた。
「これは皇帝様がくれた前金の一部さ。さっきシェノールが使った仮死になる薬だろ、それから腹痛を起こす薬。こっちは痺れ薬で、これは目が見えなくなる薬だ」
「なんだかどれも痛そうね」
マクシムがきっと役に立つと言うので、ラナはそれらを一応受け取ったが、誰かにそれを使わせたくはなかったし、もちろん自分で飲むつもりもなかった。
おそらくこれらも帝国が利用している南の大陸の麻薬の一種なのだと思えば、なおさらおぞましい。
ラナが顔をしかめて嫌そうに言うので、マクシムはとっておきのひとつもくれてやることにする。
「じゃあ、こいつはどうだい? ちょっとばかり身体が熱くはなるけど、とっても気持ち良くなれる薬さ」
彼が最後に手渡したのは他の粉薬とは違って、小瓶に入った甘い匂いのする液体だった。
ラナは訝しげに眉を上げる。
「気持ち良くなるの? 本当にそれだけ?」
「そうさ。貴族の女性にはこっそり大人気の高価な物なんだぜ。そいつは特別サービスさ。"媚薬"ってんだ」
なんだか怪しそうな名前だとは思ったが、ラナのような貴族の令嬢たちがこぞって求める大変ありがたい品だと聞いたので、ラナはとりあえずその小瓶だけはボルサの中に忍ばせておくことにした。