王太子様は無自覚!?溺愛症候群なんです
車内には打って変わってラナだけとなったので、窮屈さは皆無だった。
バルバーニの陸軍に引き渡されてからは、手足を拘束されることもなかった。
四肢が自由になったのは喜ぶべきことではあったが、これ以降はどんなに足掻こうと、軍の戦士たちはラナを決して逃してはくれないということの表れでもある。
ラナは暗い夜道を進む馬車の中でしっかりと背筋を伸ばして座り、窓の外に忍び寄るバルバーニの闇をジッと見つめていた。
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太陽が高く昇りつめた頃、ラナを運ぶ軍の馬車はようやくバルバーニの皇都へ入った。
見上げた先には雲が多く、空の色はナバの青より薄い。
皇都の目抜通りを駆ける風は肌に痛いほど乾燥し、巻き上がる土埃の匂いがラナの鼻先を掠めた。
この国の皇帝が住む城は、ナバの王城よりさらに要塞としての色合いを強く持っている。
皇都は小高い丘の上につくられ、城はその最奥部に海を背にして建っていた。
各国同士の戦や内乱や覇権争いの多かった国の歴史を物語るように、城壁の内側に連なる市街地でさえ有事には防御のための壁となるのであろう。
ラナはこんなときにもやはり異国の地に少なからず好奇心を刺激されたので、小さく切り取られた車窓から街の様子を眺めた。
国の成人男子のうち半数が陸軍兵士だというだけあって、パッと見た感じにも屈強な男たちばかりが街を闊歩している。
皆がラナの乗った皇帝の馬車に敬礼をし、ときどき見かける女性は誰もが人目を忍ぶようにヘッドスカーフを深く被っていた。
バルバーニはナバやスタニスラバと違い、典型的な男性優位の帝国だ。